PROFILE
食品機能学研究室について
機能性が期待されている食品成分のうち、生体内あるいは細胞内における作用機構が明らかにされているものは、あまり多くありません。ある成分が生体組織を構成する細胞になんらかの作用をするとすれば、最初のターゲットは細胞膜やタンパク質であると考えられます。
本研究部門では、茶に含まれているカテキン・テアフラビン類やワインに含まれているプロシアニジン類などの「ポリフェノール」、リポ酸やピロロキノリンキノンなどの「ビタミン様化合物」およびイソチオシアネート類やアリルスルフィド類等の「含硫化合物」に着目し、その脂質膜やタンパク質に対する作用(分子間相互作用)を分子レベルで解明することで、食品の持つ二次機能(美味しさ)や三次機能(生体調節機能)の発現機構を明らかにすることを一つの目標としています。また、美味しさの構成要素であり忌避性を伴う口腔感覚である渋味、苦味、辛味およびえぐ味に着目し、生物がそれらの味を感じる理由を明確にすることで、食文化の形成過程を二次機能や三次機能の観点から解き明かすことを目標としています。
本研究部門では、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析(MS)、カロリメトリー(ITC)等の分析機器に加え、電気泳動法やウエスタンブロット法等の様々な生化学・免疫化学的手法を駆使して研究を行っています。本研究部門で卒業研究に取り組めば、食品・栄養学分野における基礎研究の一般的な手法の多くを体験・習得できることを保証します。また大学院に在籍して修士課程で2年間(学士課程で3年間)真剣に研究すれば、当該の分析法に関してエキスパートとして誇ることができるレベルの知識や技術が身につくことを保証します。本研究部門の出身者は、習得した知識や技術を生かし、食品会社や教育機関において、商品開発、品質・生産管理、食品成分や生理活性物質の機能性研究などの分野で活躍しています。また医療機関の管理栄養士、製薬会社のMR、食品会社・小売店等の営業分野においても、習得した知識を活用し人々のQOLの向上に貢献しています。
1. 茶ポリフェノールの脂質膜に対する作用
茶ポリフェノール(緑茶カテキン類や紅茶テアフラビン類)が細胞に作用する時、最初のターゲットは細胞膜と考え、モデル脂質膜に対する作用(存在位置、親和性、配向、運動性等)をHPLCやQCM等の分析手段を用いて解析しています。
2. 茶ポリフェノールのタンパク質に対する作用
タンパク質は、細胞機能を制御している実行因子であることから、茶ポリフェノールが相互作用するタンパク質を探索し、その作用機序(親和性、結合様式、結合部位、結合構造)や機能変化を生化学的手法や機器分析を用いて解析しています。また、茶ポリフェノールが食品の味や物性に及ぼす影響について、食品タンパク質(アミノ酸やペプチドを含む)との分子間相互作用の観点から解析しています。
3. 植物ポリフェノールと生体成分との相互作用の分析法の構築
茶ポリフェノールをはじめとする植物ポリフェノールと生体成分との相互作用を検出する為の方法論を開発し、それを応用した親和性測定法、プロテオミクス及び簡易スクリーニング法の構築を行っています。
4. 茶ポリフェノールの脂質膜に対する作用
茶ポリフェノールは様々な生理作用を有していますが、安定性及び吸収率は低く大量摂取は苦渋味を呈するため困難です。茶ポリフェノールの酸化を抑制し苦渋味を低減させる食品成分を探索し、その作用機序の解明と食品への有効利用の検討を目的に研究を進めています。
5. ポリフェノールの渋味発現機構の解析
ヒトが渋味を感じる機構は完全には解明されていません。茶やワインに含まれるポリフェノールを用いて渋味評価法の開発や渋味発現機構の解明を進めています。
6. ビタミン様化合物の体内動態及び機能性発現機構の解析
ビタミン様の食品成分であるピロロキノリンキノンやリポ酸の生理作用発現の解明をめざし、これらの機能性成分と相互作用する成分を探索するための方法論の開発や体内動態・作用機序の解析を進めています。
上記以外にも、食品や植物に含まれる微量ポリフェノール成分の抽出法の開発や分析、植物ポリフェノールと生体成分との相互作用解析、酸化修飾タンパク質の解析及び食品タンパク質のプロテオミクス等で学内外の研究室との共同研究を積極的に進めています。